熊本に帰省したついでに、熊本県民天文台で一般公開をするつもりだったのですが96年最後の公開日12月28日を逃してしまいました。どうも、定期的にお客さんに星をみせてないと自分の体の調子が悪くなってしまうのですが、ここ1年一般公開をやっていないという「最悪の状態」で97年を迎えてしまいました。

 年が明けて30分後・・・
 こりゃーまずい、まずい、まずいぞと思いながら、熊本県民天文台にいくと、夜前半の観測を済ませたJ氏とN先生が下の部屋にいました。ふと横をみると、ミードのドブソニアン(30cm,F5)が、横たわっていた・・・
 「そりゃ、年に3回ぐらいしか使いよらんけーん、それがあっと(この部屋が)何となく天文台らしく見ゅっでしょ」
と、持ち主のN先生。すでに、部屋のインテリアと化しているらしい・・・
 でも、N先生がつまりこれをここに置いているわけは、実は奥さんに内緒で買っているのではないかという疑惑があるわけでして・・・今まで幾度となくこんなことがあったわけで・・・この疑いもけっこう真実をついているのではないかな・・・とか考えているうちに・・・突然!!

 よし、このドブソニアンで、初日の出を見に来た人に、星を見せてやれと!!
と、思い立ったわけです。天気も良さそうだし、おお、日の出前は天空高くお月さんも輝いているではないか!!
 早速実行に移すことにしました。
 私が以前から提唱している「ゲリラ的天文普及活動」(*1)の一環として名付けたコード名は「あけましておめでとう作戦」(*2)です。

熊本県民天文台のホームページ
N先生のホームページ

 0100:熊本県民天文台近くのN先生宅に年始の挨拶にむかう。毎年恒例の■■君も来ていた。彼は毎年ここで飲んだくれるのが年中行事になっているが、今年はなんと自分のパソコンを持ち込んで、プロバイダーへの接続の設定に四苦八苦している最中だった。もちろんお酒も(たぶん)飲んでいない。彼のホームページがしばらく更新されなかった秘密は実はここにあったのであった。

 0130:再び、熊本県民天文台に戻って、ドブソニアンを愛車レガシィに苦労して積む。160cmほどもある鏡筒はつかむところがなく、一人で持つのはかなり難しい。まだJ氏は残っていたが、どうせ、これからなにもかも一人でやることになので、がんばって自分ひとりで積んでしまう。

 0200:J氏といっしょにコタツに足をつっこんで仮眠。新年早々J氏と同衾してしまった。

 0400:目覚ましもかけてないのにきちんと起床。われながらすごい。夜空は高いところから雲がかかり始めている。天気が崩れ始める前触れである。高知大学にアクセスして、ひまわりの最新画像をみる。日の出まで天気は持ちそうである。

 0430:熊本県民天文台を出発。阿蘇方面に向かう。

 0530:大津のコンビニで弁当とカップのミソシルを買う。ホウレンソウのミソシルである。やはりこういうときはミソシルに限るのである。

 0600:阿蘇広域農業道路、通称ミルクロードを登り、一番手頃な、かぶと岩展望所に到着。すでに駐車場は車で満杯。うまい具合に脇道の先に空いた場所があったのでそこに停車。ドブソニアンを降ろす。

 空は、雲が増えていたものの、薄くてまだ十分に観望できる状態でした。
 必死の思いでドブソニアンを展望所のところまで運び上げ、組立。月齢20の月が頭の上に輝いているので、そこに向けました。黙っていても、お客さんは向こうからやって来ないのでとりあえず、近くでふるえていた男1女3のグループに声をかけゲット。男の人からはカンコーヒをいただきました。あと、適当に声をかけお客さんを確保しました。
 やはり思っていたとおり、初日の出をこんなところまでわざわざ観るくる人と、月のクレータに感激する人は強い相関があるようで、観た人観た人みなさんに喜んでもらえました。
 ところで、気温は7度ぐらいで低くないのですが、南西の風がかなり強く、月に向けている鏡筒がだんだん風にあおられ立ってくるので、手で鏡筒の縁をつかんでいました。一回は金星にも向けて観たのですが、低い高度では上下の釣り合いが極端に悪く断念しました。


筆者とドブソニアン式望遠鏡。髪の毛が風で舞い上がっている

 そうこうするうちに東の空が明るくなってきました。
 ここかぶと岩展望所は阿蘇外輪山の内側の縁にあり、下を見下ろすと高低差500mほどの断崖絶壁が緩やかに弧を描いて左右に広がり、その中央には阿蘇の五岳がそれぞれ個性のある山容を見せています。そのうちのひとつ中岳のある方向からはうっすらと噴煙−実際見えているのは水蒸気なのですが−がたなびいて昇っています。上空には雲はあるものの、太陽ががでてくる祖母山系の稜線付近には雲一つ無く、非常にクリアでした。

 このころになるとおおよそ100名ぐらいの人が集まってきていました。軽装の人が多く、ブルブルブルブルと寒さに震えていましたが、誰もが朝焼けの美しさに感動してほとんどしゃべりもせず見とれていました。もっとも日の出の時刻を知らずに、いま出るか、いま出るかとかまえて待っていた人もいたことでしょう。

 7時過ぎに、私の観望会はひとまず中断して、CANON12x35防振双眼鏡で日の出付近の稜線を観ていました。山の稜線には林が続いていて、一本一本の木の幹、枝が空の色をバックにきれいに見えてました。その空は、はじめは、茜色だったのですが、オレンジにそして黄金に変わりました。7時20分過ぎ、いよいよ太陽面が昇る直前には、一瞬、林全体が燃え上がるような光の渦に取り囲まれ、そして強い光が射しはじめました。こんな感動的な日の出をみたのは初めてです。きて良かったとホント思いました。


日の出直後

 
日の出を見た人たち。
写真は小さくて分かりにくいが皆うっとりとした表情をしている。


 日が昇ったあとも、お客さんがあとからあとから来るので、しばらく青空の中の白い月を観せていました。もう雲が増え始め、雲の隙間から僅かな時間、月が顔を覗かせるような状態になっていました。望遠鏡の片づけは最後に観てもらった家族の方に手伝ってもらって、楽にできました。
 この日は、ちゃんと数えてないのですが、30人〜40人ぐらいには観てもらったと思います。

 0930:熊本県民天文台にドブソニアンを降ろす。

1000:N先生邸にいくとまだ■■君が残っていて、ホームページ関係のプログラムの設定をやっていた・・・

 1030:家に帰る途中、強い雨が降り出した。稲光も確認できた。

1800:N先生邸に電話をすると、まだ■■君が残っていた・・・

おわ

(*1)かつて、パルコの屋上ビアガーデンで、我々もビールを飲みながら、ビアガーデンのお客さん相手に土星をみせたことがある。ちなみに、活動方針は「大人達にこそ星空のロマンを!!」です。
(*2)宇宙軍元帥・野田昌宏氏の同名のSF小説から名前を拝領しました。


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