「星屑」1988年5月号No160掲載

バイクの旅 第2弾 熊襲(※)が仙台にやって来た!!

仙台市天文台・仙台天文同好会訪問

高田ゆういち

 彗星会議の席で、仙台天文同好会遊佐 徹さんと知り合いになった。もともと今回の旅は勝手気ままな一人旅。宇都宮からの帰りは、どこかいろいろ寄って回って帰ろうと考えていたから、絶好の機会とばかりに 「せっかく、宇都宮まで来たんだから、ぜひ仙台の天文台を見学したい。」
と無理やり頼み込んで押しかけていった。
 仙台市天文台は、市の中心部からすぐ近く、仙台城に向かう通りの桜ヶ岡公園のなかにある。この天文台の母体となったのは、仙台天文同好会で、市の天文台として昭和30年、41cm反射望遠鏡からスタート。その後、プラネタリウム、展示室と次々増築していったそうである。

 私が訪ねていった時は、台長の小坂氏、小石川氏を始め職員の方が10名ほどおられた。単なる事務職という人は誰もおられず、交代でプラネタリウムのプログラム作りや解説もやるし、それぞれ研究観測もされているそうである。この後、小石川氏の案内で各種展示物を観てまわった。たいていの博物館は立派な展示物もさあ勝手に観てくれとばかりに並べてあるだけだが、驚いたことにここでは職員の人が出歩いて直接お客さんに説明している。特に41cm反射望遠鏡を前にしての小石川氏の説明のうまさにはうなってしまった。

 台長の小坂氏は非常にお若い。事務室に詰めかける学生との会話を楽しんでおられる。これは私と遊佐さんの会話。
 
「今晩晴れたら(夜の)11時ごろ天文台に電話して、台長がいたら望遠鏡使えるよ。」
 
「今日の夜は小坂さんがおられるんですか?」
 「いやーいつも天文台にいらっしゃるよ。いつもたいてい5時に1回、自宅に戻られてそれから朝まで泊まっていかれる。」
 「うへー!」

 
「台長がいれば、同好会の者も訪ねていけてよく夜中話なんかしにいくよ。」

 いい忘れていましたが、仙台天文同好会の事務室は、この天文台の1室をかりておかれている。会員は仙台市を中心に小学生からいるそうである。(人数を聞くのを忘れていた)月に一回、会誌「星座 The constellation」を発行している。

 で、私が訪ねた時は会誌の発行の日であった。昨年1年間、星屑編集に携わってきただけに、どんなにしてできあがるのか、興味津々であった。印刷の日は前の会議で連絡してあって、いつも土曜の夕方からである。その日はあいにくの雨で集まりがわるかったようである。
  それでも、大学生や、高校生が天文台にかせ(※)しに集まってきて、遊佐氏(この日、天文台の一室でカンヅメされていた)の彗星会議の原稿ができるやいなや、印刷が始まった。
  この日の「星座」は「月面観測会特集」となうっての、全22頁の大作。内容は月面のほか太陽観測、彗星会議、日食報告、星雲星団観測、瀬戸大橋で地球の曲率を実証する話など盛り沢山。

 仙台をみていると、こんなふうに街の中心部で会員の人がすぐ集まれる所があったらいいというのが良くわかる。熊本の場合を考えると、熊本県民天文台は熊本市から離れたところにあって、とくに交通手段をもたない高校生以下は利用しにくい。また普段出なれていない人には、出てくるのはちょっとおっくうである。市博物館も会員が簡単に使えるという様なところでもない。
  だからいきおい星屑などは熊大(※)天文研究会が部室としている下宿で印刷、発行を熊大生だけでやってしまうことになる。編集委員は多少なりとも「熊大生だけでやっている」ことが負担になりつつある。なにかいい方法はありませんかね−?

  「星座」の発送が終わったあとは、会員はシュラフをとりだしてプラネタリウム室や音響室(※)に潜り込んでそのまま天文台泊まり。私はこの時は同好会室のベッドを借用。
 短い間で天文台や同好会の活動について十分みてまわれなかったが、小坂氏をはじめとする天文台職員と同好会の交流が密なことが、お互いを刺激して活動がうまくいく要因になっているようである。

 バイクの旅はこの後、本州最北端を目指して下北半島の大間崎という所まで行きます。下北半島から憧れの北海道がみえました。その頃、県民天文台では口の悪い誰かさんが
  
「高田は東北に行ったっきり行方不明になっている。もう熊本には戻ってこないそうですよ〜」
  と噂を流していたそうである。まったく、ちょっと熊本を離れるとろくな事は言われないんだから・・・。

バイクの旅 おわり

※熊襲

私が訪れたちょうどこの頃は、サントリーの「熊襲発言」で東北は大揺れに揺れていた。酒屋ではサントリーだけが売れ残っていた。この騒動のため私は「熊本」から来たというだけで「本物の熊襲が来た」といわれのない迫害(?)を受けた。


天文台内で印刷をやっているところ

※かせ
県外の方のために説明。熊本の方言で「手伝う」という意味。ちなみに、「一生懸命働く」ことを「がまだす」という。
※熊大
熊本大学の略
※音響室
プラネタリウム室より音響室の方が若干暖かくて眠りやすいそうである。


この二人は東北大の学生兼プラネタリウムの声優で台本を見ながら練習をやっている。


前仙台市天文台台長小坂由須人(おさかゆすと)氏は1998年7月に逝去されました。
高田がお会いしたのは1回だけでしたが、忘れえぬ思い出となっています。
故人のご冥福をお祈りします。