Vol-3 食べさせモードのリストランテ
トリノ (イタリア) 1999年、2000年
サッカー繋がりの街
2006年冬季オリンピックが開催されることで日本でも知名度が上がってきたトリノ。ピエモンテ州の州都である。FIATのお膝元であることから”工業都市”と紹介されることが多いが、工業都市のイメージとは違い、歴史的建造物が美しい街である。また、ステレオタイプのイタリアのイメージからも少々趣が異なる雰囲気があり、時間はほぼ正確、人々は”ほどほどに”フレンドリーで、旅行者にとってはなかなか便利で居心地が良い街である。
トリノは1999年から2000年の間に3回訪れ、計30日間滞在した。FIATとの商談でもなく、オリンピック招致運動のためでもなく、ただただサッカーの試合を観たかっただけです、ハイ。そう、トリノはセリエAの人気チーム・ユベントスの本拠地でもあるのだ。ただし、私はユベントスというチームが好きだったわけではなく、所属選手のひとりが好きだっただけなので、その選手が移籍した後はトリノとの縁も切れている。観光都市としての魅力もあるので、時間とお金にたんまりと余裕ができたら(という夢がかなったら)、また行ってみたいなぁ・・・。
庶民派リストランテ
イタリアの街に滞在するのであれば食事を楽しまなきゃ損! 私は旅行中はあまりマメに食事する方ではなく、軽食で済ますことが多かったのだが、イタリアにいる時は別。トリノではポルタ・ヌォーヴァ駅近くの「ウルバーニ」というリストランテがお気に入りの店になった。
「ウルバーニ」の夜の営業開始は19時。少なくとも19時半過ぎまでに入店しないと、すぐに一杯になってしまう。イタリアの旅行ガイドには”リストランテ”は高級店と書かれていることがあるが、「ウルバーニ」はリストランテと銘打ってはいるものの、店内の雰囲気も従業員もとても気さくで、安心して入ることができる。服装はカジュアルでOK!もちろんお洒落していってもOK!
前菜!前菜!前菜!でも、パスタもね〜
店に入ってもメニューを渡されることはない。テーブルの上には赤ワインのボトルがすでに栓を抜かれて置いてある。食前酒を取りたければ注文するも良し、赤ワインが嫌いならば下げてもうのも良しだが、ここのハウスワインは美味なので、さっそくいただく。
そうするうちに運ばれてくるのが小皿に盛られた前菜。テーブル一杯に並べても並べきれない数で、この盛りだくさんの前菜がピエモンテ州の名物なのだ。モッツァレラチーズとトマトや生ハム類など見た目も味もおなじみの前菜もあれば、見た目は謎だが美味!の前菜もある。時にはオリーブオイルとバジルで焼かれたピザが登場することもある。この前菜類とパンとワインだけでも十分に満足で、ひたすら食べ続けたい気分になるけれど、ひたすら食べていると、ひたすら小皿が運ばれてくるので、腹3分のあたりでもういいです!と宣言。
ここでようやく注文開始。しかしメニューを渡されることはない。イタリアでは口上が基本なのだ。「今日のプリモ(スープ・パスタ類)は○と△と・・・。」と説明してくれるものの、前菜盛りだくさんのうえにプリモまで食べたらメインのセコンドが入らないから、プリモは抜こうと思うものの、イタリアに来てパスタ無しも寂しいなぁ・・・と、毎回同じ目に見えない葛藤を繰り返した挙句に、結局注文する。
プリモの”量”は店によってまちまちで、時には山盛りパスタに圧倒されることがあるが、「ウルバーニ」の場合は上品な量で心配することはない。2〜3人で別のものを注文してシェアしたいとお願いすれば、それぞれの皿にミックスして盛り付けてくれる。味も二重丸だ。
メインは必須!
この時点で入店してからすでに1時間以上は経っている。お喋りしながらの食事は楽しいし、ゆっくりと食べるとさらにおいしい。それにゆっくりと噛んで食べると消化も良くて、プリモを注文した時点で”じゃあ、今日はセコンドを抜こう〜”と決心したこともすっかり忘れている。「今日のセコンドは○と△と・・・。」とまたも名調子で説明してくれるけれど、私の料理関連イタリア語彙はちっとも増えないので、いつも適当に注文する。これは、好き嫌いはあるものの食べられないものは無い私ゆえの注文法だけど、運ばれて来てビックリ!も旅の食事の楽しみのひとつだから・・・。これまでに6〜7回は通って適当に注文したけれど、エビのグリルがちょっと食べ難かった(けれど、味は良かった)くらいで、ハズレなし!
セコンドを注文する時には、つけ合わせ(ポテトorグリーンサラダorミックスサラダ)もお願いするが、これはいつもサラダにしておく。一度4人で食事した時にひとりだけポテトを注文&シェアしたことがあり、外はカリカリ中はホクホクでとってもおいしかったけれど、さすがに量的に厳しい。周りのテーブルをみるとポテト率が高くて、みなさんバクバク食べてるんだけど・・・。
セコンドと付け合せの注文を済ませて、お喋りして、周りの食べっぷりをこっそりと拝見して、またお喋りして、運ばれてきた料理にニッコリして、プリモよりもさらにゆっくりと食べているうちに、そろそろ2時間半が経過する。お店側にはお客を回転させようと気は全くないらしく、入ったからには閉店までいらっしゃいな〜という対応。しかし、従業員がキビキビと動いて適時声をかけてくれるので、ダラダラと待たされているという感じはない。
”別腹”にドルチェ!(おまけも付くぞ)
食べ終わったセコンドのお皿がひかれると、テーブルにはデザートワインとビスコッティ。メインの料理を食べた後にデザートワインの甘さが心地よい。ビスコッティもおいしそうだけど胃に重いよなぁ〜と思いながらも出されたものは食べる。うまい! これが”デザート”なら何個でも食べてやるけれど、食べているうちに「ドルチェは何?」ときかれるのだよ・・・。
ドルチェの品揃えは決まっていて、ティラミスかパンナコッタかレモンシャーベット。ティラミス=うまい!パンナコッタ=うまい!ので、大抵はこの2交代制をとっていたのだが、”今日は別腹もそろそろ仕事納め?!”という日にレモンシャーベットを選択したみた。別のテーブルに運ばれているところをみると、おしゃれな細身のグラスに上品にサーブされていて、これならあっさりといただける・・・と思ったのに、プチシュークリームが3個も付いてきた。想定外だが文句は言えまい。1個だけと食べてみると、これもうまい!ので、出されたものは食べる。もちろんレモンシャーベットもさっぱりしていてうまい!
これでもう固形物は何も入らないよね〜とお喋りしていると、ガサッ&ゴロンという音。音の方向に目を向けると、ご機嫌な店の主人が焼き栗を配っている。ドルチェには焼き栗もあったんだ〜とお喋りしていると、ニコニコ顔の主人は私達のテーブルにもゴロゴロっと焼き栗を置く。しかも他のテーブルより量が多いゾ!女性は割り増しなのか?ニコニコ顔の主人をガッカリさせるのもなんなので、デザートワインと一緒に1個だけいただいてみると、これが即席マロングラッセのようでうまい!もちろん焼き栗オンリーだけでもうまい!
カフェでさっぱり・・・
しかし、さすがに全部は無理なので、手で持てる量を残して、カフェをお願いしま〜す! 個人的にはこれもイタリアオンリー。普段は紅茶派の私だけど、イタリアの紅茶はまずい・・・というよりも、注文する人が少ないから紅茶葉が古いのだと思う。だからイタリアではカフェ。イタリアでカフェはエスプレッソということはもう知られているけれど、1987年に初めて口にした時にはエスプレッソが何たるかも知らなくて、”高野山の秘薬みたいな味〜?!”と思ったものだ。今でもエスプレッソは私には強すぎるので、ちょっとミルクを混ぜたカフェ・マキアートを注文する。
カフェで後味もさっぱりとなったところで、お勘定です。御一人様で3000円相当。安いでしょ?! プリモやセコンドを抜くと引いてくれるけれど、あまり差がないので、せっかくならばお腹をすかせてコースを制覇するのがお薦めだ。現在はユーロになっているので、ユーロ高を考えると4000円弱くらいになっていると思うが、それでも十分にコストパフォーマンスは高いと思う。
お勘定も済んだし、そろそろ席を立とうかね・・・と思っていると、隣のテーブルのカップルが食後酒を注文していた。運ばれてきたレモンチェッロのボトルが可愛いので、サーブされる様子をさりげなく眺めていたら、テキパキしたお姉さん従業員が「飲んでみる?」 。
酒とバラ
もうお勘定も済ませちゃったし・・・と答える間もなく、さっさとミニグラスが運ばれてサーブされてしまう。レモンチェッロは一度味わってみたかったので、まぁ、いいか・・・。可愛いボトルの見た目とは対照的にアルコール度が高いお酒だけど、なんだか胃の中がスッキリしたような気がする。 胃が苦し〜いという時には一杯ひっかけて帰るのもいいかもしれないな。
この支払いは?と訊ねると、いいわよ〜と言ってくれるので、しっかりと礼を言ってお店を出ようとすると、店の主人が待った!をかける。やはり払わなきゃならないのねと立ち止まると、ご主人はニコニコ顔で店内に飾ってあったバラを一輪ずつプレゼントしてくれた。ステレオタイプのイタリアのイメージから少々趣が異なる雰囲気のトリノであっても、やはりイタリアだなぁ〜 この日のご主人は特にご機嫌だったのかと思いきや、その後も毎回プレゼントしてくれた。ホテルの部屋にバラがあるのは良いもので、そのバラを見ると、トリノを発つまでにまた行こう!と思うのだ。
普通のパッケージツアーでトリノを訪問することはあまりないと思うけれど、もし北イタリア方面に旅行して、フリーの日程が含まれていたら、是非トリノまで足を伸ばしてみてくださいね。もちろん”腹ペコ”で!