阿弥陀と印相

放牛地蔵の場合、多くは宝珠等の仏具を持っています。しかし、石仏の中には何も持っていないものもあります。それらは両手で、特別な形を示しています。それが「印相」(いんぞう)です。
仏教では、手と指の形に意味があります。三省堂出版の大辞林では、指を種々の形に折り曲げて、仏や菩薩の悟りや力を象徴的に表すものと記されています。印には、阿弥陀印、禅定印、説法印、施無畏印、与願印、智拳印、降魔印などがあります。ここでは、阿弥陀如来の印相を紹介します。

阿弥陀如来の印相は、指で輪をつくるのが特徴です。両手を置く位置で、三種類あります。両手を足の上に置くのが上品(じょうぼん)、両手を胸の前に置くのが中品(ちゅうぼん)、右手を肩の前に置き、左手は下方に垂らすのが下品(げぼん)です。
輪を作る指の違いで、三種類あります。親指と人差し指で輪を作るのが上生(じょうしょう)
親指と中指で輪を作るのが中生(ちゅうしょう)、親指と薬指で輪を作るのが下生(げしょう)です。
この二つの組み合わせで、九種類の印がつくられます。これらを総称して九品来迎印(くぽんらいごういん)と呼びます。

最初の三つは、両手を足の上に置く形です。これを上品といいますが、仏像の場合は座像になるようです。親指と他の指で輪を形作りますが、人差し指・中指・薬指と変化します。石仏の場合は似通っていて、よく見ないと判断に迷います。しかも上品上生の印は、釈迦如来の定印と似ています。

上品上生 上品中生 上品下生
親指と人差し指 親指と中指 親指と薬指

 

 

次の三つは、両手を胸の前に置く形です。これを中品といいますが、仏像は立像なのか座像なのかはわかりません。熊本県の文化遺産・放牛石仏には、この印は一つもありません。

中品上生 中品中生 中品下生

親指と人差し指

親指と中指 親指と薬指

 

 

次の三つは、下品の印です。右手を高く肩の前に置き、左手は下方に垂らして腰付近に置きます。仏像は立像が多いようです。放牛石仏の阿弥陀如来には、この印が多くあります。しかし、300年近く経過していて破損している場合もあります。石仏が前に倒れたためでしょうか、指が欠けています。

下品上生 下品中生 下品下生
親指と人差し指 親指と中指 親指と薬指

阿弥陀如来は極楽浄土から衆生を迎えにくるとき、人間の能力や信仰の度合いによって、九つの段階に分けます。放牛石仏を研究する場合、これらの印相を知っておく必要があります。なぜなら「混合仏」があるからです。印相は、石仏は何なのかという根拠の一つです。

ある参考図書に、これらの種類で分けることのできない内容が書いてありました。それは、施無畏・与願印の阿弥陀像が存在することです。