計算記号の話

 

  加法記号+と減法記号−を初めて作ったのは、ドイツのヨハネス・ウィッドマンという人で、1489年にボヘミヤで出版した数学書にこの記号を用いた。ただしこれは加法減法の記号でなくて、正、負を表すのに用いた。彼はその本の中で、「−とは何か、それは不足である。+とは何か、それは多すぎることである。」と説明している。つまり、計算記号というよりも、代数で使う「プラス」「マイナス」の意味に用いたわけである。
ところで、この記号を足し算や引き算の計算記号として初めて使用したのはオランダのドホエットであった。最初はわずかな人だけにしか用いられず、多くの人は知らなかった。これが多くの人々に知られて「これは便利なものだ」といわれるようになったのは、フランスの有名な数学者ヴェータの書物に書かれてからである。それで、加法減法の記号を発明したのはヴェータだという人もある。
 
    二つの式が等しいというときに、「=」の記号を用いるが、これは加法減法の記号より五、六十年おくれて誕生した。この記号を発明したのは、イギリスのロバート・レコードである。彼は1557年に、数学の本を出版したが、その中で初めて記号を用いた。しかし、レコードが最初使ったのは、「Z」のような形であった。それがだんだん変わってきて、現在のような「=」の記号になった。
では、レコードはどういうことからこんな形を考えたかというと「この世の中に二つの平行した線ぐらい等しいものはない」という考えから、二本の平行に引いた棒を等号のしるしとして用いるようになったということである。
レコードは、数学ばかりでなく、医学も得意で、国王の侍医になったほどだが、借金が多くて、そのため監獄に入れられ、ついにそこで死んだ。しかし、彼の残した「=」の記号は、それからの数学の発達に大きな役割を果たした。
 
  ×   掛け算の記号「×」を発明したのは、イギリスの数学者ウィリアム・オートレッドで、1574年のことである。おもしろいことに、そのころまでかけ算の計算式(筆算)は、現在と反対に書いていた。計算結果が一番上に書かかれていた。オートレッドのころには現在の形になっていて、これに×の記号を付け加えて表現した。
オートレッドはまた比の記号として「・」を、比例の記号として「::」を発明した。例えば、9と6の比は3と2の比に等しいという場合に、9・6::3・2 と書いた。その後、ドイツのクリスチャン・クルフが、これを9:6=3:2と書き改め、現在の比例の記号ができあがった。
 
  ÷   割り算の記号「÷」は、「×」の記号より90年近く遅れて発明された。1659年のこと。
発明者は、スイスのヨハン・ハインリッヒ・ラーンである。これは後に英国で出版されたジョン・ベルク数学書によって広く世の中に用いられるようになった。